Vestige

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養蚕農家の家には屋根に越屋根(こしやね)という換気口の小窓のついた小さな屋根がついている。蚕室内の通気を良くして蚕を健康に育てる。先人たちの知恵である。それはどれも個性的で眺めていて飽きない。しかし、現在越屋根を本来の目的で使っている家はほとんどないだろう。越屋根は、ヒトにとっての尾骶(びてい)骨のようなものだ。ヒトの尾骶骨は体内にあるので日常目にすることはできないが、越屋根は誇らしげに家の一番高い所に付いている。その姿はかつて国を支え家を助けた威厳と、本来の役目を終えながらも日々の暮らしを少し遠くから見守る親心を感じ、目にするとほんの少し心が温もる。

宮川和治 / Kazuharu Miyagawa
1972年 神奈川県横浜市生まれ。
2013年 約20年間のサラリーマン生活を経て、専門学校東京ビジュアルアーツ写真学科に入学。
2015年 同校卒業

ゼミ生の五十嵐翔平くんの展示は残り二日、3月22日(日)19:00までの開催ですが、続きまして次週の3月24(火)〜3月29日(日)の会期でTPPGにて展覧会を開催する宮川和治さんを紹介させていただきます。

宮川さんの作品は奇妙でもありまた趣のある、僕の大好きな屋根の写真。
ここ数年、奥多摩や秩父地方の山間部を歩き撮影するようになってから、今回の彼のテーマである越屋根については僕自身も注目していました。その形状の面白さもさることながら、蚕という地球上唯一の完全に家畜化された不思議な昆虫の存在。また永きに渡る蚕と人間の共生関係や、この国の近代化の礎を築いた一大産業についてなど、独特な形状のこの屋根には重層的なテーマが潜んでいます。
プロフィールにもある通り、彼は約20年間のサラリーマン生活を経て写真学生となりました。専攻講師の僕とは一歳違い。四十を越えての後、新しいことに挑戦することは容易でないと思います。しかし20歳ほども年の離れた学生たちに混じりながらも、変に高慢な態度をとることなど決してなく、誰よりも真摯な姿勢で二年間授業に臨んでくれました。そんな彼の制作へ向かう姿から、いくつになっても柔軟な思考を持つことと、変化することを恐れない姿勢を教えてもらった気分です。

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