将軍的微笑

先週の森村展に続き、今週もビデオインスタレーションの展示を見に行く。
五月晴れの空の下、品川駅から歩いて原美術館へ。本日のお目当てはヤン・フードンの「将軍的微笑」、以前から楽しみにしていた展示だ。
気分よく美術館の門をくぐると、まず目に入ったのは、チケットカウンターに行列する年配の団体客だった。
そんなに広くはない展示室、しかも一作品見るのに数分から数十分はかかるビデオインスタレーション作品、各展示室であの団体客とご一緒せざるを得ないことは容易に想像できた。
タイミング悪かったかな〜。多少の後悔しながらも、まずは展示タイトルにもなっている作品「将軍的微笑」を鑑賞する。
かなり大掛かりなインスタレーション。会場を歩き回りながら氏の作品世界を堪能する。さらっと一周してから、もう一度じっくり見ようと立ち位置を吟味していると、静かな美術館に似つかわしくない大きな話し声と共に先ほどの団体客が入場してきた。会場に入るや否や、作品を見ながらアレやコレやとお喋りを始める。
ん〜、静かに鑑賞したかったのにな〜。などと少々気が滅入ってしまったものだったが、角度を変えて団体客と作品を一緒に見てみると、その年配の団体客が作品の一部になっているように思えた。
これは作者の意図した事だろうか?しかし見事に作品と観客が一体化しているではないか。会場内に響くお喋りの声も同じく作品と調和していた。
団体客がゆっくりと移動していくのに合わせ、僕も立ち位置を変えながら、偶然の幸運の時間を楽しむ。

ある瞬間にしか立ち会えないのも展示鑑賞においての一つの魅力だ。そういった意味でもとても良い展示であった。
そして当たり前のことではあるが、ある瞬間以外において、僕は他のものを見たり感じたりしている訳だ。その間、展示空間は他の人が堪能している。まるで正面を見る時に背後が見えず、振り返って背後を見ると正面が見えないというように。
しかし優れた芸術作品は、その瞬間以外においても僕の視覚や思考に影響を及ぼす。ヤン・フードン氏の作品はいつも、時間や空間を超越する感覚を呼び覚ませてくれる。

ちなみにこれから見に行かれるご予定の方は、是非とも上着のご準備を。二階の展示室、冷房効き過ぎでした。
上映時間が長いのでかなり寒かったです。

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