FUJI A450

これ以上、居間に引き伸ばし機をのさばらせておくわけにもいかないので、そのうちの一台、長年使用したFUJI A450を手放す事にした。
引き取り手は二十歳の写真学生。

BESELER 45MX
LUCKY 90M-D

そういえば僕がこの引き伸ばし機を譲り受けたのも二十歳の頃だった。写真学生時分、アシスタントをしていたカメラマンの事務所に置いてあったものだ。4×5インチのカメラでの撮影を始めたばかりの僕にとって、それは喉から手が出るほど欲しい機材だった。しかしその事務所には暗室もなく、当然使用している形跡もない。下心いっぱいに尋ねてみる。

「この引き伸ばし機、何かに使うんですか?」
「使わないよ。持って帰れるんならあげるよ」

たったそれだけの短いやりとりで、この引き伸ばし機は僕のものとなった。しかし問題は持ち帰る方法。当時の僕は車も運転免許証も持っていなかった(今もないが)。
結局、電車で持ち帰るしか方法が思い浮かばなかった。
巨大な引き伸ばし機を抱え上げた時の重量感、そのまま電車に乗った時の恥ずかしさ、そして自宅で4×5のプリントが出来る事に対する期待感、それらを今もよく憶えている。
以来20年近く、ブローニー以上のモノクロネガからのプリントの際にはこの引き伸ばし機を使ってきた。その間、何度かの引っ越しを行ったが、狭い部屋の真ん中にはいつもこの引き伸ばし機が鎮座していた。

引き取りに来た学生がタクシーを利用するというので、大通りまでの少しの距離、久しぶりに引き伸ばし機を抱えて運ぶ。その重量感に当時の思い出が呼び起こされる。
不要になった機材とはいえ付き合いが長いもので、いざ無くなってみると寂しいものです。
ともかく新しい所有者がこの引き伸ばし機を使って、僕より沢山のプリントを作り上げてくれる事を望んでいます。

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